2022年1月1日から施行された令和3年度改正電子帳簿保存法。税務署長の事前承認や定期検査などの緩和がある一方で、電子取引の電子保存が義務化され、違反した場合の罰則も新たに設けられました。そこで、電子帳簿保存法に関するよくある質問を辻・本郷 税理士法人の菊池先生に回答いただき、Q&A集としてまとめましたので、ぜひご活用ください。
2022年1月1日から施行された改正電子帳簿保存法の大きなポイントは、電子取引の電子保存が全事業者対応必須となった点です。しかし、「そもそも何が電子取引に該当するのか」「電子保存とは具体的にどのように行うべきか」など不明瞭な点が多いのではないでしょうか。
本コラムでは電子取引部分および電子取引保存義務に関する疑問にお答えします!
なお、子取引の電子保存義務化は、2021年12月27日公表の「電子帳簿保存法施行規則の一部を改正する省令」(令和3年財務省令第80号)により2年間の猶予期間が設けられました。そのため、2022年1月1日から2023年12月31日までは猶予期間となり、実際に義務化されるのは2024年1月1日からとなります。
※2年間の猶予期間中は以下の要件を満たせば、従来通り書面保存をしても認められるとされています。
(注)「やむを得ない事情」には、システム準備や社内ワークフローの整備が間に合わない等の自己の責めに帰さないとは言い難い事情も含まれます。(~2023年12月31日)(取扱通達7-10)
また、税務調査等の際に税務職員からそのやむを得ない事情について確認があった際は、その時点での対応状況や今後の見通しなどについて具体的でなくても、適時お伝えしていただければ問題ございません。(一問一答【電子取引】問41-3)
※特段の手続きを要せず、猶予措置は認められると思われます。しかし、あくまで猶予措置にとどまり、義務化が取りやめになったわけではありません。
2023年10月1日からはインボイス制度も始まり、ますます電子取引は増えると見込まれるため、2年後に向けたしっかりとした準備が求められます。
▶ 電子帳簿保存法の改正内容と電子取引の対応方法のポイントが知りたい方はこちら
まずご紹介するのは、そもそも何が電子取引に該当するのかという疑問です。質問を通して、具体例を詳しく見ていきましょう。
電子取引とは?
国税庁の一問一答では「電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領」となっていますが、“等”の部分は明確に何の書類が該当するのでしょうか?
A.
電帳法第2条第五号によれば、電子取引とは
「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。(中略))の授受を電磁的方式により行う取引をいう」
とされています。
この条文のうち、その他これらに準ずる書類には、このほかに、請求書、納品書など、法人税法施行規則第59条第三号などにより、国税関係書類として保存すべき書類が当てはまります。
社員が使用した交通費のICカードを精算する場合は電子取引になるのでしょうか?
その場合、どのように保存すればいいのでしょうか?
A.
従業員の交通費のICカード利用による立替払いに係るものでしたら、次のパターンが考えられます。
上記①については、電子取引に該当しますので、従業員に利用実績をスクリーンショット等を撮っていただき、それを、電子取引の保存要件に従って保存していただくこととなります。
上記②については、電子取引に該当しませんので、その利用実績の紙をそのまま保存していただくか、スキャナ保存(任意)をしていただくこととなります。
コーポレートカードデータを連携する場合、3万円未満や軽減税率対象外の経費については領収書スキャンなしでも大丈夫とうかがってますが、本当でしょうか。
A.
コーポレートカードデータと連携して取引を行う場合、一般に、その取引は電子取引に該当し、その電子データについては、取引者が法人税又は所得税(源泉徴収分を除く)に係る国税関係書類の保存義務者である場合には、来年1月1日以降、お尋ねのデータについては、電子取引の保存要件に沿った形で電子的に保存する必要があります。
この点につきましては、保存にかかる金額基準は存在せず、また消費税の軽減税率対象取引であるか否かにかかわらず、保存義務が生じることにご留意ください(ご質問者が、消費税のみの納税義務者である場合には、電子取引の取引情報の保存義務はありません)。
なお、この取扱いは、海外利用分でも同様です。
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現在、従業員の交通費IC決済を含む近隣交通費は、時刻表検索で領収書なしの扱いをしています。
今回の法律改正により、交通費IC決済を含む近隣交通費は領収書ありの扱いとなり、領収書やICカード履歴が必要になるのでしょうか。
A.
結論から申し上げますと、あくまでも法令上の観点からお答えする限りは、領収書などの証憑類は、法人税法上、保存義務があります。また、電帳法上においては、それが電子取引に該当する限り、従業員から電子データを提出していただく必要があります。以下、詳しくご説明します。
仮に御社が青色申告法人であるならば、電子帳簿保存法への対応をする・しないに関わらず、法人税法施行規則第59条において「取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し」については、「起算日から7年間、これを納税地に保存しなければならない」とされており、その保存基準について、金額の多寡は存在しません。
一般に、税法により保存されるべき書類のことを国税関係書類といいますが、その保存については、納税地において保存されている必要があります。ご質問の「領収書」などの証憑類はこれに該当します。
そして、上記国税関係書類に通常記載される事項について、電磁的にやりとりする場合には、電子帳簿保存法における「電子取引」として、金額の多寡に関わらず、同法の要件に沿った管理(保存)が必要となります。
仮に、これまでの税務当局との接触状況や保存に係るコストを考慮して、一定金額以下の領収書は保存しないとのご意向があるならば、上記の説明をご理解頂いたうえで、ご判断いただきたいと思います。
次に電子保存を行う際にはどのような点に注意する必要があるのか、具体的な疑問を参考に、詳しく見ていきましょう。
真実性の確保・検索機能の確保については、優良帳簿の場合のみ対応でよろしかったでしょうか。
国税庁一問一答では全事業者と読めましたので、確認させてください。
A.
まず、電子帳簿保存法は、
の3つについて規定しており、それぞれについて保存要件が異なります。
(1)電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係については、自己が一貫してコンピュータで作成した国税関係帳簿(仕訳帳、現金出納帳、売上帳、仕入帳など)と国税関係書類(棚卸表やBS/PL、注文書、契約書、領収書など)を電磁的に保存すべきもので、そのシステムの概要書等の備付け、見読可能装置(ディスプレイなど)の備付け、検索機能の確保が求められます。そして、優良電子帳簿の優遇を受けるためには、追加で訂正・削除・追加を確認できる電子計算機処理システムを使用することや、帳簿間の相互関連性が求められます。
しかし、(1)自体が任意のものであり、さらに任意で要件を満たしたうえで申請を行い優遇措置を受けるというものですので、全事業者必須というものではありません。
(2)スキャナ保存(紙→電子保存)については、タイムスタンプ付与の要件(真実性の確保)や検索機能の確保が求められますが、任意のものですので、全業者必須ということではございません。
(3)電子取引(電子データ→電子保存)については、電子保存する際には真実性の要件の充足と可視性の要件の充足(検索機能の確保)する必要があり、電子取引についてはすべての事業者がこれに該当する取引を行った場合には電子保存が義務となっておりますので、全事業者必須という認識で間違いございません。
したがって、電子取引に関する電子データの保存につき、真実性の確保・検索機能の確保が全事業者必須ということになります。
スキャナ保存において、訂正・削除の事実を記録できるとは、いつだれが訂正・削除したかを記録できればいいという認識であっていますか?訂正前・削除前のデータを保存する必要はありますか?
A.
「訂正・削除の事実を記録できる」とは、保存された記録事項について、「いつ、誰が訂正・削除したか」の事実に加えて、その内容についてシステム上で確認できることを指します。具体的には、
が求められます。
タイムスタンプの付与については、Google Driveやサーバーでの更新履歴では代用不可ということでよろしいでしょうか。
A.
ご認識の通りです。電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(以下、電帳法施行規則)第2条6項2号ロにおいて、タイムスタンプとは一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプのことを指しているため、ご質問のような更新履歴のみでは、保存要件を満たしているとはいえません。
スキャナ保存要件にタイムスタンプによる真実性の確保必要であるということでしたが、例えばメールなどで仕入れ先から見積書をいただいた場合、当該添付ファイルにタイムスタンプ処理は不要ということでしょうか。
A.
まず、メール等で見積りに関する電子データ(添付された見積書のPDFファイルや見積情報が記載されたメール本文)の受領は、電子帳簿保存法において「スキャナ保存」ではなく、「電子取引」に該当します。
すなわち、電子データは電子データのまま保存する必要があり、これは義務規定のため、すべての事業者が対応する必要があります。
その上で申し上げると、電子取引に係る取引情報を保存していただくためには、タイムスタンプ処理をしていただく必要は必ずしもありません。具体的には、以下のいずれかの方法によることが可能です。
電子メールに添付されたPDFファイルは、PDFのまま保存ではなく、スキャナ保存になるのでしょうか?
A.
スキャナ保存は、郵送等により書面(紙)で受領した証憑(契約書や請求書など)をスキャナやスマホを使って電子データにして保存するものを指します。
ご質問のように証憑データとなるPDFファイルをメール添付の形で送られてきた場合には、電子取引に該当します。なお、電子取引で受領した電子データについては、電子データのまま保存しなければならず、書面保存は認められない※ことにご留意ください。
※業務の都合上、書面出力すること自体は認められます。
押印のため印刷した契約書等の書類をPDF化したデータをメール送信すると、電子取引の要件を満たして保存する必要があると思いますが、それに加えて手元に残った書類も紙保管orスキャナ保存が必要でしょうか?(”国税関係書類以外の書類とみなす”に関して)
A.
ご認識の通り、相手方に書面をPDF化してメールで送信した場合には、そのPDF化したデータのまま保存義務があります。一方で、手元の書類は特段の保存義務はございません。
クラウド請求書サービスから受領した請求書では、サイトへのアクセス権限があり受領履歴が追えるのであれば別途PDFのDLは不要でしょうか?
A.
まず、当該請求書データはクラウドサービスを利用して受領しているため、電子取引に該当し、電子保存する必要がございます。ご質問内容はサイトへのアクセス権限があるため、ダウンロードせず、サイト内で保存するということを意味されていると思いますが、電子取引の保存要件は、真実性の要件と可視性の要件の両方を充足する必要がございます。
真実性の要件について、こちらのサービス内でタイムスタンプが付与できる又は訂正削除履歴が取れる若しくは訂正削除ができないことが求められます。もし、これらができない場合には、訂正削除に関する事務処理規程を策定し、それに沿った運用を行わなければなりません。
さらに、可視性の要件については、保存先で取引日・取引先・取引金額で検索できなければなりません。この2つの要件について充足できない場合には、ダウンロードして別途これらの要件を満たす形で保存しなければなりません。
請求書等を電子と紙で受領した場合、電子も保存する必要はありますか?
A.
おそらく、急ぎの案件等又は確認の意味を込めて、メール等で先に請求書等のデータを送り、その後郵送等で書面(紙)の請求書等が送られてくるケースが想定されていると思います。
このような場合には、取引慣行や社内ルール等により、書面を原本として受領しているときは、その原本(書面)の保存を要し、電子データの保存は求められておりません。
2022年1月以降、電帳法対応にてスキャナ保存を行った領収書類の原本の回収/保管は不要になるという認識で宜しいでしょうか?
A.
受け取った請求書及び領収書の保管に関するご質問と認識してお答えいたします。
請求書や領収書を書面で受け取った場合には、電帳法上のスキャナ保存の要件を充たした上でスキャナで読み取り、最低限の同等確認(電磁的記録の記録事項と書面の記載事項とを比較し、同等であることを確認(折れ曲がり等がないかも含む)することをいいます)を行った後であれば、電子帳簿保存法の観点からは即時に廃棄して差し支えありません。
また、請求情報や領収情報を電子データで受け取った場合には、その請求情報や領収情報そのものが原本として電子的な保存対象となります。
電子メール本文に取引情報がある場合、電子メールそのものを保存する必要があるということですが、メール画面をPDF化したものを保存することでも問題ありませんでしょうか?
A.
国税庁より2021年11月に公表された「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」の電取追3(p7)において、「当該メールに含まれる取引情報が失われないのであれば、メールの内容をPDF等にエクスポートするなど合理的な方法により編集したもので保存することとしても差し支えありません。」との回答が出されております。従いまして、PDF化による保存で問題ございません。このほか、メール本文をスクリーンショットによる画像データの保存も認められます。
見積書等の保存は、最終的に金額が確定したものだけで大丈夫でしょうか?
A.
法人税法126条及び法人税法施行規則59条、また電子帳簿保存法取扱通達解説(趣旨説明)7-1【解説】(2)で、確定した見積書であれば、最終確定見積書だけではなく、金額交渉途中の確定見積書も保存しなければなりません。
また、相見積もりの場合には、すべての見積書を保存する必要がございます。ただし、法人税法が根拠条文となっていることからも、電子帳簿保存法の改正ですべての見積書を保存しなければならないとなったわけではございません。したがって、会社の現状の(書面での)保存状況を鑑みていただいてもよろしいかと思います。
電子帳簿保存法に対応したシステムとはどのようなものでしょうか?
A.
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による要件適合性の確認(「認証」)を受けた市販のソフトウェアおよびソフトウェアサービスが、電子帳簿保存法に対応したシステムと言えます。
JIIMA認証を取得したシステムやサービスを利用することにより、法令に準拠した電子帳簿保存の実施が可能となります。
ただ、JIIMA認証には、対応する電子帳簿保存法の要件により、いくつか種類があるため、この点は注意が必要です。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度に関してですが、菊池さんの話では事務処理規程とExcelでの管理では厳しいとの説明がありました。
当社としてはシステムを導入せず対応する方向で考えているため、その部分具体的にどうすればよいのか経験談等をお伺いできればと思います。
A.
電子取引の保存をするうえで、(1)真実性の要件と(2)可視性の要件(検索機能の確保)が求められます。
システムを導入せず対応となりますと、(1)真実性の要件については、事務処理規程を策定する、(2)の検索機能の確保について(A)ファイル名を「取引年月日_取引先_取引金額」にリネームする、又は(B)索引簿を作成する(ご質問の通り、Excel等で取引年月日、取引先、取引金額を管理する)ということになります。
授受後の業務フローの一例を紹介すると、
などを行う必要があります。
請求書等保存ソフトの利用する/しないを混在して対応はできますか?
A.
電子取引に該当する取引データの授受の方法は種々であることからも、その授受したデータの様態に応じて複数の改ざん防止措置を使い分けることは認められます。また、電子データの格納先や保存場所についても、例えば、取引の相手先ごとに取引データの授受を行うシステムが異なっている場合において、各取引データについて、必ず一つのシステムに集約して管理しなければならないとすることは合理的でないと考えられますので、取引データの授受の方法等に応じて保存場所が複数のシステムに分かれること等は差し支えありません。
さらに、1つの請求書等保存ソフトがすべての証憑に対応できないケース(請求管理ソフトでは請求書・領収書の保存しかできないなど)もあるため、証憑別など一定のルールに従って請求書等保存ソフトを利用する場合としない場合の混在はありうるかと思います。
しかし、同じ取引先から毎月同一のシステムを介して請求書データをやり取りしているにもかかわらず、合理的な理由がない状態で規則性なく保存先を散逸させ、保存データの検索を行うに当たっても特段の措置がとられず、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができないような場合、すなわち、同種類の証憑で規則性がなく請求書等保存ソフトを利用する場合と利用しない場合が混在することは認められません。
監修
辻・本郷税理士法人/辻・本郷ITコンサルティング株式会社
DX事業推進室 税理士/取締役
菊池 典明
2014年税理士登録。2012年に辻・本郷 税理士法人大阪支部に入社。
株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、
法人の事業承継や個人の相続コンサルティングを担当。
2015年より経営企画室に所属し、クライアントのクラウド会計の導入やDXの推進などにも携わる。2021年より現職。
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