様々な要件が設けられている電子帳簿保存法への対応においては、検討すべき事項が多岐にわたります。その中でも、プロジェクトを進める上で障壁となり得るポイントや効率的な進め方についてご紹介します。
電子帳簿保存法スキャナ保存への対応プロジェクトにおいては、関係部署が多くなることがよくあるため、スケジュール通りにプロジェクトを進めていくためには、社内間調整や他部署を巻き込む動きが重要となります。
例えば、立替経費精算に係る領収書をスキャナ保存対応させるプロジェクトにおいては、下記のような多くの部門が関わり、意見をまとめることに苦労される企業が多くあります。
・経費申請者やその上長承認者が在籍する各事業部門
・経費精算を管理する経理部門
・規程の新設・改廃に関わる法務部
・システムの開発や利用に関わる情報システム部門
・内部監査を実施する内部監査部門 等
特に、事業部や営業部の意見が強い企業においては、事前に現場の上長を説得し、プロジェクトに協力してもらえるよう、上手く巻き込んでおくことが、プロジェクトを円滑に進めるポイントです。
この働きかけをせず、経理部門のみでプロジェクトを進行した企業では、申請直前になってから現場社員へ電子帳簿保存法対応による運用の変更を伝えたところ、運用変更に対して大きな反発を受け、運用方法の見直しからプロジェクトがやり直しになるケースなどがありました。
そのため、関係各部署のキーマンや上長の合意を得ながらプロジェクトを進行させることが重要です。また、企業によってはCFOやCEOといった強い権限を持った方を説得し、会社の意思決定として電子帳簿保存法対応を推進させていくことによって現場理解を得て、プロジェクトを上手く進めていく企業もあります。
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多数の拠点を抱える企業や子会社を多く抱える企業では、どのようにすれば効率的にペーパレス化の全社展開を実現できるか、という議論がよく上がるかと思います。
ご存知の方も多くいらっしゃるかとは思いますが、スキャナ保存対応においては、拠点や部門ごとなどで電子化の運用方法を分けることはもちろん、スキャナ保存対応申請する対象書類の範囲や開始時期についても、拠点や部門ごとなどで指定することができます。
そのため、スキャナ保存対応を初めて申請される企業の中には、試験的にまず一部門や一拠点でのみ申請し、その後全社展開を進めていく企業も少なくありません。
例えば、経理部門で数か月試験的に運用し、運用前には想定できなかった細かな問題点等を洗い出し、改善された運用方法を主要な拠点・部門から順に横展開していくことで、スムーズかつ効率的な運用方法を拠点や部門ごとに展開していくことに成功した企業があります。
一方、申請前に運用方法やルールを細かく取り決め、さらに従業員教育を徹底的に行うことで、一斉に全社展開をされる企業もあります。
しかし、電子化運用開始後、各現場の社員から多数の問合せが寄せられ、現場も経理部も混乱状態が長く続くケースがあります。その結果、運用開始直後に受領した書類において、正しく電子化できず、紙で保存しなければならない書類が残ってしまうことはもちろん、電子化運用に否定的な社員を生むことがあります。
このように、電子化の全社展開を成功させる企業の中で、経理部門や主要な拠点でのスモールスタートを実施した後、横展開させていく企業は多くあります。
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今回は、電子帳簿保存法スキャナ保存への対応プロジェクトを進める上で障壁となり得るポイントや効率的な進め方をご紹介いたしました。
電子帳簿保存法スキャナ保存対応へのプロジェクトを円滑に進めるためには、国税庁の承認を得るための法令要件へ対応した運用フローの設計だけでなく、社内の理解を得るための働きかけや展開の仕方についても十分に検討することが必要となります。
著者略歴
齊藤 佳明(サイトウ ヨシアキ) 公認会計士
リック・アンド・カンパニー合同会社 代表CEO
2000年 早稲田大学商学部卒。
大学卒業後、グラフィックデザイナーを経たのち、2005年公認会計士旧2次試験に合格。同年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入所。
2017年総合系コンサルティングファームのグローウィン・パートナーズ株式会社入社。電子帳簿保存法コンサルティングの事業立ち上げに参画。サービス統括責任者としてソリューションベンダーとのアライアンス、年間30本以上のセミナーや会計専門誌などへの寄稿を通じて、当事業における圧倒的なポジショニングを築き上げ、2年間で1億円の事業へと成長させた。
2021年電帳法コンサルティングに特化したリック・アンド・カンパニーを設立。これまでの経験を活かしクライアントの経営課題解決のために会計とITの側面からプロジェクトを自ら主導する。 その他にも、セミナー・執筆等を多数手がけている。
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