「電子インボイス」普及の切り札
「Peppol(ペポル)」とは?
うちの会社でも「Peppol」の導入って本当にできるの?
インボイス制度とは、「消費税の仕入税額控除」の適用を受けるための方式のこと。この制度は、単なる「電子化」ではありません。以前のコラムでは、業務のあり方そのものを見直し、真の「デジタル化」を進めることにより日本のデジタルトランスフォーメーション「JAPAN:DX」へのパラダイムシフトへとつなげていく可能性が高いことをご説明しました。
※参考:「JAPAN:DX」の救世主となるか?「デジタル化」の鍵を握る「インボイス制度」とは?
一方で、それぞれの会社が独自の規格で「デジタル化」を進めた場合、規格の違いにより、自動取込や連携が出来ず、思っていたほどの生産性向上につながらない恐れもあります。
この点、「電子インボイス推進協議会(EIPA)」が電子インボイスの日本標準仕様(「日本版Peppol」)の策定を進めています。本稿では、この「日本版Peppol」について、考察します。
Peppol(ペポル)とは、企業の受発注や請求に必要な電子書類(発注書、請求書など)をネットワーク上でやり取りするための規格のこと。国際的な標準規格です。
2020年7月、会計ソフト・システムベンダーを中心として「電子インボイス推進協議会(以下「EIPA」とします)」が設立され、国内で活動する事業者が共通的に利用できる電子インボイス・システムの構築を目指し、日本標準仕様を策定・実証し、普及促進させるべく活動を行っています。
「EIPA」としては、既に一定の普及をしている国際標準仕様を日本標準仕様に拡張することで、開発期間の短縮等を図っており、その日本標準仕様のベースとして採用を決定したのが、欧州を中心に30か国以上で利用されている「Peppol(ペポル)」です。この「Peppol」に必要最小限の拡張を行い、「日本版Peppol」とすることを目指しています。
「日本版Peppol」が「電子インボイス」の日本標準仕様として普及することの代表的なメリットとしては以下が考えられます。
一方で、本当に「日本版Peppol」が普及するのか、利用にあたりユーザー側の負担が大きいのではないかという不安もあると思いますのでそれらについて解説を加えていきます。
「日本版Peppol」の導入を検討するにあたり、主に以下の不安・疑問が挙がると考えられます。
新しいサービスが導入されると、開発コストが利用者に転嫁されることが一般的です。この点については「日本版Peppol」が日本標準仕様として公開されたとしても、業務ソフトベンダー側で一定程度開発コストが生じることから、同様の状況にあると考えられます。ただ、既に採用している国においても利用料は安価に設定されているようで、日本でも現状の業務ソフトの利用料の中に含まれる、もしくは限定的な追加料金での利用が可能になることが想定されます。
ただし、業務ソフトベンダーの今後の開発やベンダーとしての事業判断によるところもありますので、利用料に関しては、今後の状況を注視する必要があると思われます。
「日本版Peppol」が想定していたほど普及しなかった結果、自社で導入しても、取引先が導入していないためデータ連携及び業務の自動化が進まないことが考えられます。
普及するか否かに関しては、以前のコラムでも記載した通り、「インボイス制度」をきっかけとして、各社が現状の業務の在り方を再検討することが非常に重要になります。政府としても「デジタルガバメント実行計画2020」において「経済産業省においては中小・小規模事業者の実態を踏まえ、中小企業共通EDIとの相互接続性の確保のための取組を行うほか、標準化ソフトの導入を促すための環境を整備する」としており、「日本版Peppol」を普及させるためのインセンティブについては、検討していることが窺えます。
「日本版Peppol」は「Peppol」に必要最小限の拡張しか行わないため、業界特有の慣行には対応しない可能性があります。また、特定の業界では業界EDIに即した「日本版Peppol」の仕様と互換性がない独自の電子インボイスを開発する可能性があり、この場合には「日本版Peppol」の利用は出来ません。
この点については、業界特有の慣行や独自の電子インボイスと「日本版Peppol」の互換性に関する今後の動きについて注視しておく必要があります。
上述の通り、「日本版Peppol」もまだ幾つかの課題が残る部分もあります。しかしながら、自社を取り巻く全ての取引で「日本版Peppol」が利用できないことをもって、その導入を見送ることは早急であると考えます。
最も重要なことは、「デジタル化」により業務の効率化・生産性の向上を進めることであり、「日本版Peppol」の利用によって、購買・仕入業務の全てがデジタル化できなかったとしても、そのメリットとコストをもって、適切に導入・活用の判断をすべきです。
とはいえ、ユーザー側の業務やルールを変えることによって、(日本版Peppolに対応した)システムのポテンシャルを最大限引き出し、効率的な業務を実現可能にできる部分もあると思います。そもそも現状の業務のそのまますべてをシステムの機能で代替をすることはできません。システムを導入すればもれなくバラ色な業務プロセスを実現できる。という考えでは十分な成果は出ません。
「導入を機会に、業務内容及びルール(規定等)の見直しや廃止を検討し、実行する」このような業務を変える意識(覚悟)を持つことが重要であり、システムが得意なこと、人間が得意なことを見極め、適切な業務の再配分を検討するにあたり、使えるものは全て使っていくという意識が、結果として業務の効率化、ひいては日本におけるデジタルトランスフォーメーションである「Japan:DX」につながっていくものと考えられます。
関連コラム:「JAPAN:DX」の救世主となるか?「デジタル化」の鍵を握る「インボイス制度」とは?
著者略歴
リック・アンド・カンパニー合同会社
中川 兼太(公認会計士/税理士)
2006年 神戸大学経営学部卒。2005年 公認会計士旧2次試験に合格。同年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入所。同監査法人にて上場企業をはじめ、幅広い業種・規模の企業に対する法定監査業務、内部統制監査制度の導入支援業務、社内研修講師等に従事。
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