「日本版Peppol」の標準仕様ドラフトがついに完成。
「電子インボイス」が普及するために
見つめ直すべき日本の商慣習とは?
「日本版Peppol」の標準仕様ドラフトがついに完成。
「電子インボイス」が普及するために
見つめ直すべき日本の商慣習とは?
前回のコラムでは、「日本版Peppol」の仕様においては、必要最小限の拡張しか行わない。そのため、「電子インボイス」の普及には、「自社の業務内容及びルール(規定等)の見直しや廃止を検討し実行する」、こういった業務を変える意識(覚悟)を持つことが重要ということに触れました。
本稿では、それらを踏まえて今後「電子インボイス」が普及するためには、日本の商慣習のどういったところが鍵になるのかをみていきます。
※参考:「電子インボイス」普及の切り札「Peppol(ペポル)」とは?うちの会社でも「Peppol」の導入って本当にできるの?
令和3年9月3日、デジタル庁の平井デジタル大臣は、デジタル大臣として初めての記者会見の中で、「日本版Peppol」の標準仕様「案」がPeppolの管理団体である「Open Peppol」のウェブサイトに公開されたことを公表しました。
この「電子インボイスの標準仕様化」については、デジタル庁においても官民一体となったフラッグシッププロジェクトとして位置づけられており、注目されています。
さて、その「日本版Peppol」における標準仕様について、策定主体である「EIPA(電子インボイス推進協議会)」は、インボイス制度で求められる記載事項やそもそもの消費税法などの法令制度対応はもちろんのこと、現在の日本における「商慣習」といった業務上の要件対応についても重要視する姿勢であることを示しています。
ただ、その一方で「EIPA」としては、前回のコラムで触れた通り、国際標準仕様である「Peppol」から「日本版Peppol」への拡張は必要最低限しか行わない方針であり、全ての請求業務にまつわる商慣習に対応することも現実的ではないと考えているようです。
この「どこまで拡張するか」は非常に大きなポイントであり、一般的に拡張性が高いほど仕様がフィットした時のユーザー利便性は向上しますが、その分、開発のコストや工期が嵩み、場合によっては導入時においても専門性や複雑性が必要以上に高くなり、大きな障害になってしまうことも考えられます。
では、その拡張性に影響を及ぼすような日本の商慣習とはどのようなものがあるでしょうか。
主たる商慣習としては、「月次請求書発行」が挙げられます。
日本では一般的に「締め日」といった概念を用いて取引の集計期間を相手方と合意し、その期間に行われた取引については、(多くは月毎に)集計し、一回の請求書で纏めて請求を行う実務が習慣として根付いています。
ところが、例えば物品販売取引などでは、取引の都度、「納品書」が交付されているため、上記書類間の対応関係として「1対1」になっていません。そのため「月次請求書」の金額の妥当性や正確性を検証するために、該当期間で発生した「納品書」等の「取引エビデンス」との突合やチェック作業が事後的に別途発生します。しかも大概は経理業務の忙しい月初にこの作業が発生します。
どのような経緯でこのような「月次請求書」という慣習が生まれたのかはわかりませんが、筆者が推測するに日本に古くからある「信用掛け売り」の商慣習と「発行事務の省力化」という効率性の観点から生まれたのかもしれません。ただ「事務手続の効率性」ついてはあくまでも「紙の請求書」発行・郵送が前提となっているため、今後、デジタル化に移行すればそこまで重視しなくてもよいと考えます。
むしろ上記請求書月次チェックによって業務が煩雑になっており、デジタル化を阻害しているのであれば本末転倒です。
つまりこの「電子インボイス制度」および「Peppol標準仕様化」は、これらの日本の商慣習に寄せるべきではなく、むしろこれを機会に日本の商慣習自体を見直すべきものと捉え、今後は納品書と同じように「都度請求書」をスタンダードとすべきではないでしょうか。デジタル化ではこれが十分実現可能と考えます。
一方で、請求業務の前提となる債権債務の発生するタイミングが「納品書」発行のタイミングと若干異なるといったこともあります。しかしそういった取引こそ、これまでの口頭や慣習で行われてきた「業界暗黙知」をしっかりと契約書等によってその内容・条件の明文化を実施するべきです。さらにインボイス制度における「適格返還請求書」や「修正した適格請求書」で対応することによって十分カバーできるはずです。
コラム第1回からのテーマである「Japan:DX」を起こすきっかけとして、この「電子インボイス制度」は十分インパクトがあると筆者は考えます。
そのためには「日本の商慣習」自体にメスを入れることは必至であり、こういった「発想の転換」こそ今の時代に求められている考え方でないでしょうか。
これまでの常識・慣習を当たり前の「業務要件」と捉えず、本来の目指すべき方向に馴染まないのであれば、勇気を持って「変える、やめる」ことを断続的に行っていく。これこそがまさに「Japan:DX」の鍵になると確信しております。
技術面ではテクノロジーは十分に進化しました。あとは、人間が、一人一人が、目の前の貴方が変わるだけです。
関連コラム:「JAPAN:DX」の救世主となるか?「デジタル化」の鍵を握る「インボイス制度」とは?
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著者略歴
齊藤 佳明(サイトウ ヨシアキ) 公認会計士
リック・アンド・カンパニー合同会社 代表CEO
2000年 早稲田大学商学部卒。大学卒業後、グラフィックデザイナーを経たのち、2005年公認会計士旧2次試験に合格。同年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入所。
2017年総合系コンサルティングファームのグローウィン・パートナーズ株式会社入社。電子帳簿保存法コンサルティングの事業立ち上げに参画。サービス統括責任者としてソリューションベンダーとのアライアンス、年間30本以上のセミナーや会計専門誌などへの寄稿を通じて、当事業における圧倒的なポジショニングを築き上げ、2年間で1億円の事業へと成長させた。
2021年電帳法コンサルティングに特化したリック・アンド・カンパニーを設立。これまでの経験を活かしクライアントの経営課題解決のために会計とITの側面からプロジェクトを自ら主導する。 その他にも、セミナー・執筆等を多数手がけている。
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